オステオポンチンによる癌の浸潤・転移機構の解明

  癌細胞を中心に進められてきたこれまでの研究は癌治療において一定の成果を上げてきたが、癌の根絶には至っていない。近年、癌細胞やその周囲の細胞が産生する細胞外マトリックス(ECM)やサイトカインによって構成されるがん微少環境が癌の増悪に重要であることが明らかとなってきた。更にはがん微少環境中に、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンなどの従来のECMタンパク質と明確に区別されうる ”マトリセルラータンパク” と呼ばれる新たなECM分子群が発見された。マトリセルラータンパクは癌の病態に深く関与していることが明らかになりつつあり、新たな癌治療薬のターゲットになりうると考えられている。その代表格が私たちの研究対象である ”オステオポンチン(OPN)” である。

  OPNは様々な組織や血液、尿などに存在し、組織構築や炎症、創傷治癒などの生理的・病理的現象に関わっている。一方で、OPNは癌組織において高発現しており、その発現上昇は予後不良と相関している。これまでの多くの研究から、OPNが腫瘍形成や癌の浸潤・転移と密接な関わりがあることが示唆されている。OPNは癌の浸潤・転移を引き起こす細胞の接着や運動を細胞表面受容体αVβ3インテグリンおよびCD44を介して制御する。OPNは様々な翻訳後修飾を受けるが、リン酸化OPNの修飾はその生理活性と密接に関係している。一方で、糖鎖修飾がOPNに与える影響については明らかとなっていない。そこで私たちは、OPN上のO-結合型糖鎖が自身の持つ細胞接着促進活性およびリン酸化状態にどのような影響を及ぼすのかについて組換え型OPNを用いて調べた(図1)。その結果、 O-結合型糖鎖がOPNの細胞接着促進活性およびリン酸化を抑制していることが明らかとなった(kariya et al., Biochem. J. 2014)。また、O-結合型糖鎖の欠損によって新たに付加されたリン酸基の中に細胞接着促進活性を抑制するものが存在する可能性が示唆された。これらの結果は糖鎖によるOPN分子の新たな機能制御機構の存在を示唆している。

  私たちは現在、癌の浸潤・転移の促進に関わるOPNの糖鎖付加部位およびリン酸化部位の同定をおこなっている。最終的にはOPNによる癌の悪性形質発現メカニズムをOPNが受ける翻訳後修飾に着目して明らかにするとともに、それら知見による癌治療薬開発を目指して研究をおこなっている。

ご興味のある方は kariyafmu.ac.jp までご連絡ください(迷惑メール防止のため@は全角にしています。半角の@になおしてください)。