視神経脊髄炎(NMO)発症機構の解析

視神経脊髄炎発症機構の解明

福島県立医科大学生化学講座 准教授 苅谷慶喜

 

[研究の背景]

 視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica:NMO)は、19世紀より多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)の種類の一つ(視神経脊髄型MS)と考えられてきました。ところが2004年、アクアポリン4と呼ばれるタンパク質に対する抗体がNMO患者さんの血清中に特異的に存在する事が発見されました。その後の研究から、この抗体が脳内のアストロサイトと呼ばれる細胞に存在するアクアポリン4を攻撃することでNMOが発症するということがわかってきました。このことは、ミエリンと呼ばれるタンパク質のダメージにより発症するMSとは異なるメカニズムでNMOが発症するということを示唆しており、両者は異なる疾患であると認識されるようになってきています。

 実際にNMOはMSと異なり、発症から急性に視力障害から失明に至る場合が多々あります。また、治療においてMS患者さんではインターフェロンβの投与は有効ですが、NMO患者さんへの投与は病状を悪化させることがあるので注意が必要です。したがって、NMOにおいては早期に的確にMSと判別し、適切な治療をおこなうことが重要であるといえます。

 現在、NMOとMSを判別するにあたっては、先に述べたアクアポリン4に対する抗体が患者さんの血清中にあるかないかを調べます。しかしながら、それは技術的に難しい検査であるため、実施可能な機関は全国で4ヶ所と限られています。以上のことから現在、アクアポリン4とは異なる、簡便かつスピーディーに検出可能なNMOとMSの新たな判別マーカーが求められています。また、NMOがどのようにして発症するのか、そのメカニズムがわかればNMOの根本的治療薬の開発が可能となるかもしれません。

[研究の目的]

 本研究では簡便かつスピーディーに検出可能なNMOとMSの判別マーカーを同定するとともに、NMOの発症メカニズムについて調べることを目的としました。

[研究方法と結果]

 NMO、MS、その他の神経疾患の患者さんの脳脊髄液中のタンパク質について解析をおこないました。脳脊髄液を対象とした理由は、脳と直接接していることから、脳内の変化を直接反映している可能性が高いと考えられたからです。解析はウェスタンブロットおよびELISAと呼ばれる手法を用いました。これらの方法は非常に一般的であり、多くの病院で実施可能です。解析の結果、NMO患者さんにおいてのみ顕著な増加が認められる細胞外マトリックス関連タンパク質Xを発見しました。更に、NMO患者さんの脳組織を調べると、タンパク質Xが大脳白質に非常に多く存在しており、それらは脳内の細胞が作り出していることがわかりました。NMO患者さんの脳組織においては、炎症が起こっています。炎症時にはマクロファージと呼ばれる細胞が血液から脳内にやってきます。そうした血管から浸潤してきたマクロファージ自身も、タンパク質Xを作り出していることが免疫染色によりわかりました。

 それでは、NMO患者さんの脳内で大量に作られているタンパク質Xは、NMOの病態に関与しているのでしょうか?先ほど述べたマクロファージの脳内への浸潤はNMOの病態と相関しています。そこで、タンパク質Xがマクロファージの脳内への移動を促進する役割をしているのではないかと考えました。マクロファージに対して、NMO患者さん由来あるいはMS患者さん由来の脳脊髄液を処理すると、NMO患者さん由来脳脊髄液においてマクロファージの移動能力が大幅に促進されました。この移動はタンパク質Xの阻害抗体により抑制されました(図2C)。このことはすなわち、NMO患者さん由来脳脊髄液中のタンパク質Xがマクロファージの移動を促進した、といえます。

[まとめと今後の展望]

 本研究の主な成果として次の2つが挙げられます。

1)    NMO患者さんの脳脊髄液において大量に存在するタンパク質Xを発見しました。これは、簡便かつスピーディーに検出可能であり、MSとの新たな判別マーカーになる可能性が高いものです。

2)    タンパク質Xは、マクロファージの運動能力を高めることで、血管から脳内への浸潤を促進し、NMO病態における炎症を悪化させる可能性が示唆されました。

 最近、自己免疫疾患に関与すると考えられているTh17免疫細胞とタンパク質Xが深い関わりを持つとの報告がありました。タンパク質Xは、NMO発症において本研究で示したマクロファージへの影響だけでなく、自己免疫疾患と関係するTh17細胞にも影響している可能性があります。今後、これらのメカニズムを更に詳しく調べることで、タンパク質Xを標的にしたNMOの分子標的治療薬の開発をおこなっていきたいと思います。

この内容は、公益財団法人難病医学研究財団助成金の報告書の一部を改変したものです。