ラミニン332による癌の浸潤・転移機構の解明

  ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は細胞を接着させる、いわば “糊”のような役割を果たしており、組織構築にとって重要な役割を果たしている。近年、そうした接着はただ単純に細胞を固定するだけでなく、インテグリンなどの細胞表面受容体を介して細胞の運動、増殖、分化、細胞死抑制などを調節していることが明らかになってきた。これは、ECMタンパク質が細胞間を埋める単なる“詰め物”である、という従来の概念とは完全に異なるものである。

  これらECMタンパク質のうち、ラミニン332(旧名ラミニン5、以下Lm332)はラミニンα3A、β3、γ2鎖からなるヘテロ3量体で、表皮細胞や重層扁平上皮組織の基底膜における主要成分である(図1, 2)(Kariya et.al., 2009, Mini-Reviews in Medical Chemistry)。Lm332は皮膚組織の維持に重要なタンパク質であり、その構成鎖いずれかの遺伝子異常は致死性の表皮剥離性水疱症を招く。また、皮膚の創傷治癒においては表皮細胞の運動を促進する重要な役割を果たしている。その一方で、Lm332は癌の増殖、浸潤・転移を促進していることが示唆されている(Kariya et.al., 2013, Laminins: Structure, Biological Activity and Role in Disease)。私たちはLm332が癌細胞の接着や運動、増殖を極めて強く促進するECMタンパク質であることやその活性調節機構を、多数の組換え型Lm332変異体を作製し明らかにしてきた(Kariya. et al., 2002, JB; Kariya. et al., 2003, J.Cell Biochem.; Kariya. et al., 2004, ECR; Kariya. et al., 2004, JBC) (図3)。また、これまでその実体が不明であったラミニン332B(旧名ラミニン5B、以下Lm332B; α3Bβ3γ2)を組換え型タンパク質として初めて単離し、Lm332BがLm332よりも細胞の接着や運動、増殖をさらに強く促進することを明らかにした(Kariya. et al., 2004, JBC)。面白いことにLm332Bの構成鎖であるラミニンα3B鎖は正常組織のみでの発現で、癌組織では発現していない(Kariya. et al., 2008, J. Mol. Histol.)。

  

  

  Lm332はプロテアーゼによる切断により(図1)、構造変化とともに活性が変化する。また、Lm332は糖鎖修飾の変化によっても細胞接着や運動促進活性が変化する(Kariya. et al., 2008, JBC; Kariya. et al., 2010, JBC)(図4)。Lm332の受容体であるα6β4インテグリンのβ4インテグリン上の糖鎖もLm332の活性に影響を与える(Kariya. et al., 2011, PLoS One) (図4)。こうしたプロテアーゼによる切断や糖鎖修飾の変化は細胞の癌化によって引き起こされる。ごく最近、ポリマー化した不溶性Lm332が表皮角化細胞の静的な状態に重要であることを見いだした (Kariya. et al., 2012, PLoS One)。これは可溶性Lm332がサイトカインのように細胞運動を促進する(Kariya. et al., 2004, ECR)のとは逆の性質である。このようにLm332はその修飾や存在状態によって活性が変化すると考えられる。現在、Lm332およびその受容体であるα6β4インテグリンによる癌細胞の浸潤・転移メカニズムを詳細に調べている。それら知見により新たな癌治療薬の開発へと結びつけたいと考えている。

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